“アルビノ狩り”は今― 日本から見るアフリカ・タンザニア周辺国の変化と未来

アルビノ狩り 最新まとめ アルビノ(アルビニズム)
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アフリカのタンザニアなどで「アルビノの人体(の一部)をお守りにすれば成功者になれる」「人間のアルビノから作る薬が万病に効く」などの馬鹿げた迷信から、呪術師に差し出すためにアルビノの人を殺傷する残虐な事件が、いわゆる“アルビノ狩り”というセンセーショナルなワードによって報じられ、日本でも話題になっていたことがある。

参照: 「呪術師に高値で売れる」、東アフリカ・ブルンジのアルビノに魔の手 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News (2008年)

また、そうでなくてもアルビノとして生まれてきたことが「呪いだ」などとされ、親族から暴力をふるわれるなどの事実も報道されていて、とてもショックを受けていたのを憶えている。

たった、この十年そこそこの話

参照: [アルビノ]恐ろしい事件が、まだ世界には実在するって。 | かすやどっとねっと (2012年12月)

この記事に辿り着いてくださった方なら、充分にご存知だとは思うけれど…

アルビノアルビニズム)は、生まれつき体内に色素を作る能力が無い(または極端に弱い)遺伝子疾患を持つ生命で、普通の人より身体が受けるダメージが大きいことから日焼けをしないよう注意が必要な他、弱視などで視力が弱いことも多い。

けれど普通の人間で、すべてが尊い命。

なのに…残念だけれど今もなお存在しているアルビノ狩り事件について、今一度ここにまとめておく。

とある記事では、以下のような書き出しで事件の恐ろしさを伝えている。

タンザニアでは、皮膚や毛髪、目のメラニン色素に欠乏をきたす遺伝子疾患、すなわちアルビノ(先天性白皮症)として生まれることは、死刑宣告を意味すると言っても過言ではない。2006年以降、71人が命を奪われ、29人が襲撃されている。

タンザニアで続くアルビノ狩り | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト (2013年1月)

(しかもその7年くらいだけの「あくまで報告に基づいた数字」で…実際にはこれよりはるかに多くの事件が起きているとされる)

ここには、迷信から「呪術医に売る」ことを目的とした殺傷事件の他にも、「アルビノとの性交渉で、エイズ(後天性免疫不全症候群)が治るというデマが信じられている」ことから、アルビノの少女が性的暴行を受ける被害が頻発しているとも書かれている。

人を殺傷することだけじゃなく、性的暴行も酷い凶悪犯罪であることは、世界中どこでも当たり前のことだと信じていたいのに。
現実としてそんな事件が起こり続けていたことに、怒りと悲しみが絶えない。

また、それほど多くはないものの、関連した情報として「中国やインドなど他国の地方でも、アルビノの子供は不幸をもたらすとして孤児院に入れられたり、街頭で物乞いをさせられたりすることが多い」というような事実も目にするようになった。


アフリカのタンザニアは特別「1400人に1人がアルビノとして生まれてくる」らしく(北アフリカやヨーロッパなどではその割合は2万人に1人とぐっと少なくなる)、また社会的な背景からも、そうした事件が多いのだろうけれど。
他の国でも差別や偏見が実在していることが、じわじわと世に露呈してきた。

2000年代に入ってから、インターネットメディアの拡大もあって世界の凶悪事件として報道され、日本にまで聞き及ぶようになったのはもちろん、現地でも大問題であったからだ

2008年の、東アフリカ・ブルンジ東部のルイギでの事件についての記事の中にも「警察は、アルビノの手足、臓器、血液がタンザニアに運ばれ、呪術師に売られていることを確認している」と記されている。

参照: アフリカ最大の映画祭フェスパコ、注目は「アルビノ殺害事件」題材のマリ映画 写真9枚 国際ニュース:AFPBB News

それからも繰り返し、権力者が地位や何らかの力を得るためだとか、金を得るためだとかの醜い人間の欲望により引き起こされる非人道的な事件は、その愚かさを伝えるため報道され続けてきた。

日本では“アルビノ狩り”なんていう気持ち悪いパワーワードで、僕らアルビノの日本人にとっては甚だ信じがたい絶望的な恐怖として、そして一部のオカルティックな物好きには興味関心の対象として知られてきた。


現地アフリカでも情報は発信され続けていたのだろう。
少しずつではあるものの、時代とともに変化は起きていた。
人身売買については厳罰化がなされ、保護施設もつくられた。

それを受けてか一時的に事件数は減少するものの…、根本的な解決には至らず。
しばらくするとまた「呪術師に材料として売るため」などと、アルビノの人の殺傷事件が起こる。
選挙が近付けば政治家が、スポーツの国際大会などではその関係者が…、迷信にすらすがりたい馬鹿げた考えで呪術に頼り、その呪術ビジネスの一部として起こるアルビノ狩り事件。

信じられないし信じたくない現実。
けれど確実に…報じられる前から実在し続けていた事件。

それまで、なかなか世界に届くことのなかった悲惨な現実。
それがインターネットメディアの成長やSNSの登場・定着によって、世界中の多くの人に知らしめられることも増えたことは、ひとつの時代の進歩とも思える。
(その分、飽和状態にもなり情報がかなり刹那的になってしまいもしたけれど。)

2014年にはやっと「呪術医2人が警察に逮捕」されたと報じられた。

参照: アルビノ女性を殺害し切断、呪術医2人逮捕 タンザニア 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

そもそも呪術ビジネスのために「アルビノの人体の部位を護符にすれば選挙で勝利したり仕事がうまく行く」などという迷信を人々に植え付けた根源こそが、呪術師だとされている。
これまで常識的に「アルビノの人を殺傷する」「性的暴行」「人身売買」というような犯罪行為でしか事件化してこなかったところに、犯人として呪術医が逮捕に至ったことは大きな出来事であった。


情報が世界中に拡がり注目されたことから、しかるべき組織も動きを見せた。

国連で、アルビニズムの人々に対する差別や偏見をなくし理解を高めるために「国際アルビニズム啓発デー」が制定されたのは、2014年11月のこと。

参照: 6月13日は「国際アルビニズム啓発デー」:アルビニズムの人々を狙った暴力−差別や偏見をなくし、理解を高める日| 日本ユニセフ協会 | 世界の子どもたち

参照: 「国際アルビニズム啓発デー」が作られた理由 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト

2015年6月13日が、初めての「国際アルビニズム啓発デー」だったわけだけれど。
それから数年経った今でも、まだまだこの現実を正しく知る人は、日本には少ない。

SNS文化の影響も少なからずあると思うのだけれど。
短く切り取られた文言だけが散らばり独り歩きをして…「アルビノで生まれてくると殺されるんでしょう」とか「アフリカではアルビノの人は食われるらしい」とか、とんでもない酷い表現が、今でもまだまだ見受けられる。


2015年1月にも、大きな変化が起きた。

タンザニア当局は、アルビノ(先天性色素欠乏症)の人々が殺害される事件の急増を抑えるため、呪術師を禁止した

タンザニア政府、呪術師を禁止 急増するアルビノ殺害の抑止に 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

実効性はひとまず置いておいて、根本的な原因となる呪術師の禁止。

アルビノ(先天性色素欠乏症)の人たちに対する襲撃や殺人が多発している東アフリカのタンザニアで、これらの事件に関連して一斉捜索が行われ、225人が逮捕された。地元警察が12日、発表した。
 警察によると、逮捕されたのは資格を持たない伝統的な心霊治療家や予言者ら。今後は全30州に捜査範囲を拡大するという。

アルビノ殺害めぐり一斉捜索、予言者ら225人逮捕 タンザニア 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

「心霊治療家」や「予言者」らを一斉捜査・逮捕。
タンザニアが国をあげてまがいものの呪術を禁止し、人命を脅かすような無資格の呪術ビジネスをおこなう人物たちを逮捕したのだ。

それまで、信仰の延長上で曖昧になっていたものを、現代社会として「犯罪である」と現実にしめしたのは、非常に大きな前進だと思った、が。

そこから数字上の減少を見せたのは…しかし残念ながら実際に政府が動いたタンザニアだけで。
隣国のマラウイやブルンジなどその他の地域ではなんと、減るどころか急増したとの記事がある。
親族が主犯格となった事件すら起こる始末。

最悪だ。
最も酷い状況だったタンザニアに大きな進展があったのに…、むしろ周辺国に拡がってしまうだなんて。

このころになってようやく「黒人コミュニティにおいて差別されることも多いアルビノの現実を少しでも発信し変えていければと、モデルとしてファッションショーに立った」というような内容が日本にも届いてきたというのに。


しばらくして、日本でも小さな動きはあった。

「アルビノ狩り」の実態に迫る 東京で9日、初の会議へ:朝日新聞デジタル (2018年)の記事では、国際会議「東京アルビニズム会議」が開かれたとある。

同会議では、アフリカのサハラ砂漠以南の国々では、今なお根強く残る呪術信仰のため、アルビニズムの子どもや女性が殺害される「アルビノ狩り」について報告された。切断された被害者の体の一部は、呪術などのために売買されるという。

世界で起きている「アルビニズム」への迫害知って 東京で啓発イベント 写真8枚 国際ニュース:AFPBB News

またそのころから、東京2020オリンピック・パラリンピックの勢いもあって、アルビノのパラリンピック選手を取り上げる記事に付随するように、アルビノ狩り事件についてもやんわりと…報道されることがあった。

それでも世界はより良い方へ― 時代は確実に変わっていける

2022年。
こんなに絶望的で、小さな進展はあるものの変化が遅すぎて、もう諦めて目を逸らしてしまいそうになっていた時に、また大きな出来事があった。

モザンビーク北西部テテ(Tete)州の警察は25日、先天性色素欠乏症(アルビノ)の子ども3人を呪術の儀式用に売ろうとしたとして、父親とおじを逮捕したと発表した。
 警察によると、父親とおじは9~16歳の子ども3人を隣国マラウイに連れて行き、約4万ドル(約550万円)で売る計画を立てていたとみられる。警察は匿名の情報提供を受けて先週末、3人を救出した。

アルビノの子ども3人の売却計画、父親とおじ逮捕 モザンビーク 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

初めてなのかも知れない”事件を未然に防げた”というニュース。

しかもこの事件では、犯罪を企てた犯人たちに激怒した市民たちが警察署に押し寄せる事態にまでなったらしい。
多くの市民が、アルビノの子の人身売買について怒りを抑え切れなくなるほどに、理解が進んでいるという証明だと思えるじゃないか。

これまで書いてきたように。
殺人も虐待も差別も犯罪であることはほとんどの人が理解していながら、ビジネスとして私欲を満たそうとした呪術師が存在し、それに金を払い権力やらを欲する“購入者”が存在し、状況を把握していながら国を変えるにまでは進めなかった政府や組織があった長く暗い時代から。

犯罪であることを逮捕や有罪判決から確固たる事実として知らしめ、犯罪行為を禁止する流れをより具体的にし、ついに“凶悪犯罪を計画した”親族を逮捕。
標的となって誘拐された子たちを無事に救出出来たことに、ようやく見え始めた未来への希望が、ほのかにではあるものの…確かに感じられる。


それでもまだ…根絶には至らない。

アルビノの人にとって最悪の地域だったタンザニアが、呪術を禁止し大きく動いたはずなのに。
諸悪の根源となる悪質な呪術師がその周辺国へ散り、同じ惨劇を引き起こし続けている実態がある。

遠く離れた日本という国から、どれだけ思いを馳せても、出来ることなんて見つけられないのだけれど…。

時代は常に、より良い方へ進化し続けることが出来るはずだ。

世界中がインターネットで繋がり、情報が行き渡るようになったじゃないか。
遠く離れたこの国でも、そこで今なお起きているリアルを知ることが出来る。

まずはアルビノ(アルビニズム)についての正しい理解をし、正しい知識と認識を拡散しながら、世界の動きに目を向けて、情報に手を伸ばし続けていくことが大切だと思う。

自分で考えることをやめずに。
正しく知り、より良い方へ変わり続ける時代を信じ、この世界を生きていこう。

その国々にも、正しい教育が行き渡りますように。
貧困問題が少しでもなくしていけますように。

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